隣地工事で自宅が傾く
依頼者が居住している建物は古くからあるもので、依頼者やその先代が必要に応じて増改築をしてきたものでした。この建物に傾き、ひび割れ、排水異常が生じたのは、隣地工事が原因でした。その当時、隣地ではマンション建設のため、地面の掘り下げが行われていました。そして、地面を掘り下げる際、通常であればしっかりと土留めを行うのですが、マンション建設業者の行った土留めが一部崩れ、それに併せて依頼者宅を支える地面の一部が沈下し、上記の不具合が生じたのです。
さて、このケースでは、責任の所在も問題になりましたが、とくに問題になったのは、損害をどのように算定するかでした。
まず、通常のケースでは修補見積もりを取得して、それが損害額の基準となるのですが、このケースでは建物が非常に古かったために固定資産税の評価上は大変低額な建物でした。そのため、修補見積額が建物の固定資産税の評価額を大きく上回ってしまいました。マンション建設業者側は、全損でも固定資産税の評価額を基準とすべきことから、一部損壊で補修する場合に全損の場合以上の賠償の必要はないと主張しました。当方としては、そのような低額の賠償では到底、建物を補修できない、固定資産税の評価額が必ずしも客観的価額を反映しているわけではない、と反論しました。
次に、この建物が古かったゆえに、修補見積もりどおりに修補してしまうと建物が従来よりも強化されてしまうという問題もありました。理論的には事故直前と比較して痛んだ部分が損害なので、修補見積もりは事故直前と同様に修理するものであるべきです。しかし、建物が古かったため事故直前と同様に修理するのは不可能で、修理をすればどうしても事故直前よりも強化されてしまうのです。このように強化されてしまう部分については損害との関係でどのように理解すれば良いのか悩みました。
そして、このケースでは、依頼者が裁判による解決を望みませんでしたので、裁判所の判断が示されることなく、マンション建設業者と訴訟前に和解をしましたが、上記の2つの問題について、みなさんは、どう思われますか。