建築関係訴訟の実際 -調停委員・専門委員・鑑定ー
建築紛争事件が、裁判に持ち込まれると、瑕疵にあたるかどうかの判断と、瑕疵と認められた場合の修補費用が問題になるのが通常です。
瑕疵にあたるかどうかの判断には、建築の専門知識が不可欠です。修補費用の算定についても同様です。
しかし、裁判官は、法律の専門家であっても建築の専門知識はないため、建築関係訴訟には、イ 調停委員、ロ 専門委員 という制度が用意されています。また、必要に応じて鑑定が行われることもあります。
これらの制度が利用されるのは、通常、争点整理が終わり、瑕疵一覧表が完成した時点になります。調停委員、専門委員、鑑定人となるのは、裁判所が委嘱した一級建築士、構造設計一級建築士等です。建築士の方にもそれぞれ専門があるので、事案に応じてふさわしい人を選任しているようです。
【調停委員】
「付調停」という決定がなされ、調停委員として、参加します(民事調停法20条)。
調停というと、一般民事調停や家事調停を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、当地(名古屋)における建築関係訴訟の場合、裁判官があくまで調停の主催者で、調停委員は、建築の専門家の立場から意見をいうというのが通常です。民事訴訟手続きにおける「(現場)検証」制度は、調停委員が選任されてから、「現地調停」という形で行われます。
調停は話し合いによる解決を目指す制度であり、調停委員は、調停の最終段階で瑕疵にあたるか否か、瑕疵と認めた場合の修補費用についての意見をのべます。鑑定の場合や、私的に建築専門家の意見を聞く場合は、費用負担が問題になりますが、調停委員は、原告・被告からみると、無料で専門的意見を言ってくれるので、すごく助かる制度です。調停委員の意見は口頭の場合もありますが、書面化されている場合の方が多いと思います。調停委員の意見を踏まえて調停が成立することが少なくありません。また、調停が成立せず、尋問等に進む場合も、調停委員の意見は判決に反映されることが多いので、調停委員の意見の内容は重要です。
【専門委員】
専門的な知見に基づく説明を聴くために、専門委員を選任して、訴訟手続きに関与してもらう制度です(民事訴訟法92条の2)。調停委員は、意見をのべますが、専門委員は、意見を言うのではなく、専門的な知見に基づく説明をするにとどまります。
当地(名古屋)の裁判所では、専門委員制度はあまり利用されていませんが、他地域では調停委員ではなく専門委員が活用されているところもあるそうです。
【鑑定】
通常の建築関係訴訟は、建築士の調停委員がつくので、鑑定の必要性がないことが多いのですが、例えば壁の内側が腐朽しているか否か、どの程度の腐朽であるかなどが瑕疵の重要な内容である場合は、鑑定が必要になることがあります。鑑定人に選出されるのは、やはり一級建築士等の専門家です。鑑定の場合、鑑定費用の予納が必要です。