建築業者が倒産してしまったらどうする?
マイホーム(一戸建て)建築中に、建築業者が倒産してしまったらどうしますか?
マイホームの建築は、通常、一生に一度の大イベントです。大きな夢を抱いて、多額の代金を支払って(通常、多額の住宅ローン債務を背負うことになります)、マイホーム建築に取り掛かったところ、建築業者が倒産してしまった…。こんなことが現実に起きています。被害を最小限度に食い止めるために知っておくべきことをお話しします。 建築業者が倒産した場合は、破産手続きが取られるのが普通ですので、以下のお話は、破産手続きが取られることを前提にします(今回は、建築が6割進んだところで建築業者が倒産してしまったことを例に取り上げます)。
工事がストップ-まずやるべきことは?
建築工事の途上で建築業者が倒産した場合、建築業者から下請け業者や常庸者への代金や手間賃の支払いがストップしてしまうので工事はその時点で中断してしまうのが通常です。 建築工事がストップしてしまった場合、まずやるべきは、すでに出来上がった部分が傷つかないように保護すること=「養生」です。本来は、倒産業者が最低限の誠意として行うべきことですが、やることができない場合も少なくありません。養生をしておかないと被害が拡大するので、誰が養生費用を最終的に負担するのかはさておいて、とりあえず自分で負担して、やっておくべきです。
次は-出来高査定
完成を100として、工事ストップ時に、出来高は何パーセントなのかの査定を行う必要があります。これも本来倒産業者が行なうべきですが、倒産業者側と施主との間で利害対立を生むところなので、施主側でもやっておくべきです。当該工事の確認申請をなした建築士の方に頼むのが一番良いでしょうが、その人が倒産業者内部の人である場合は、利害関係のない建築士の方に頼んでください。。
工事ストップ時の支払い済み代金は?
建築工事の請負代金は、工事の進捗状況に合わせて3回か4回に分かれて、支払われることが多いだろうと思われますが、工事の進捗状況と、代金の支払額が正確に比例するものではありませんので、工事の出来高が6割の時に建築業者が倒産すれば、代金について
a.8割支払い済みになっている
というケースもあれば、
b.4割しか支払っていない
というケースもあります。
aとbとで、その後の法的な手続きは変わってきます。
a(出来高 > 既払い代金)の場合
倒産業者の破産管財人が、施主に対し、出来高と、支払い済み代金との差額を請求してきます。
施主側としては、これは支払わねばなりませんが、問題となるのは次の2点です。
① 養生費用
養生もしないで工事をストップすれば、出来上がった部分が痛むのは当然です。養生費用は、破産法第72条1項②、③の予定する「支払い不能になった後」もしくは「支払いの停止があった後に」取得した破産債権とは言えないはずです。ですから、施主側は、自分で養生費用を負担した場合、これを出来高と既払い金との差額支払い義務との相殺によって確保することができます。但し、養生費用が多額になり、施主側の支払い義務を超えてしまった場合は、破産債権として、配当をうけるしかありません。
② 残工事に要した超過費用相当額
ストップした工事について、別の業者に残工事をやってもらう場合、材料代が高騰したり、工事の中断の影響でやり直さねばならない工事が出たりして、元の契約の残金だけでは工事を完成させることができないという事態が発生することがよくあります。これは、建築業者の倒産により、施主に生じた損害であり、施主には超過費用相当額の損害賠償請求権が発生します。この損害賠償請求権について、差額支払い義務と相殺できれば、施主は損害の回復ができるのですが、東京地判・平成23年3月23日(判タ1386号372頁)は、破産法第72条1項1号を類推適用して相殺を禁じています。相殺ができなければ、超過費用相当額については、他の破産債権者と同様の比率での配当を受け得るのみとなります。
b(出来高 < 既払い代金)の場合
破産法第53条1項は、「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続き開始のときにおいて、ともにまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、または破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる」と規定しています。同条2項は、「前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約を解除するか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす」と定めています。そして、第54条は、破産管財人が解除を選択した場合、相手方は、解除に基づく損害賠償請求権は、財団に現存すれば直ちに行使でき、あるいは財団債権者として返還を受け得ると定めています。
簡単に言えば、払い過ぎでいる工事請負代金は、破産財団が形成されていれば、一般の破産債権者と異なり、配当を待つことなく、全額優先的に返還を受け得るということです。
しかし、注意しなければならないことは以下の2点です。
① 履行済みでないこと
出来高は、10割ではないのに、請負代金は全額支払い済みの場合は、保護されないということです。例えば、工事請負代金が3000万円の場合、出来高が5割1500万円相当として、2800万円支払い済みである場合は、1200万円返ってくるが、3000万円全額が支払い済みである場合は、破産債権者としての配当しか受け得ない(配当率が2%なら60万円しか戻らない。しかも、配当時期まで待たねばならない)ということです。あまりに不公平な気がしますが、法律で定まっているため、何ともなりません。やはり、請負代金は、出来高に応じて、分割払いにすべきです。
② 破産管財人からの解除を待つこと
工事がストップしてしまった場合、破産者が建築工事を再開して完成させるということはまずありえませんが、施主側が慌てて破産者との請負契約を解除してしまうと、解除に基づく存在賠償請求権は、一般の破産債権になってしまいます。解除権は破産管財人にのみあります。出来高より払いすぎている場合は、施主側は解除はしないで、破産管財人に解除を促しましょう。
保険に入っておきましょう
建築途中で、建築業者が倒産してしまった場合、以上に述べた知識を知っておくことは必要ですが、しかし、残工事に要した超過費用相当額のように、知識を持っていてもカバーしきれない損害もあります。破産財団がわずかしかない場合は、財団債権者であっても救済されません。
マイホームの建築請負契約を締結する前に、建築業者の経営状態について調べることが必要ですが、万一に備えて保険に入っておくことをお勧めします。
住宅保証機構の住宅完成保証制度というのを知っていますか。発注先が同制度の登録業者で、機構指定の工事請負契約約款に基づき工事請負契約が締結され、その後、登録業者が機構に工事完成のための保証委託契約を申請して保証書が出ていれば、 同機構によって完成が保証される制度です。これ以外にも、建築業者が倒産した場合に備えての保険商品があります。建築業者の経営状態について、少しでも不安があれば、保険に加入しましょう。
以上、概要を説明しましたが、破産手続がとられた場合の対応には専門的な法律知識が必要になりますので、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。