家を建ててしばらく経ってから瑕疵が見つかり,建築業者に対して損害賠償を請求すると,業者側から「【その建物住んできたこと】を利益として考えて,損害賠償額から控除すべきだ」と主張されることがあります。
この【建物に住んできた】という利益を「居住利益」といいます。他人の家を借りるときには家賃が発生するように,「住む利益」を金銭的に評価したものです。
「損害額から居住利益を控除すべき」という主張の根拠としては,「賠償金が全額認められれば,施主はあらためて新築建物を取得できることになって不当だ」という考え方が背景にあるようです。
しかし,この考え方には次のような問題があるとして批判されていました。
① 倒壊等の危険にさらされながら瑕疵のある建物をやむなく使用していることを「利益」とみることはできない(危険な欠陥住宅を他人に貸して賃料収入を得ることなどできない=利益を生まない)。
② 本来であれば,完成引渡時から瑕疵のない建物を使用できたのに,長年にわたって欠陥住宅に住むことを強いられてきたのはむしろ「継続的な不利益」である。
③ 業者側が争うことで長引けば長引くほど,居住期間が増えて居住利益も膨らんでいくため,受けられるべき賠償額が減っていくことになり,手抜き工事をし,かつ交渉に不誠実な業者ほど好都合な結果を招くことになる。
このような居住利益を控除すべきかどうかという論点について,最高裁判所は,「新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物全体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるとき」には,居住利益を控除できないと判断しています(最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決)。
この判例は,新築建物の売買の事例ですが,建築工事を依頼して完成引渡を受けた新築建物が欠陥住宅であった場合にも同様にあてはまります。
この判決は,「新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合」すなわち建て替え費用相当額の損害賠償請求が認められる場合であって,なおかつ,「建物全体が社会経済的な価値を有しないと評価すべき」ときに,居住利益の控除を否定したものですので,瑕疵の程度によっては,建て替え費用相当額から居住利益の控除が認められる余地は残っています。
とはいえ,建て替え費用相当額の損害賠償請求をする場合,「構造耐力上の安全性に欠け,建物が倒壊する具体的な恐れがある」ことは多いですので,もしも業者側から居住利益分を引くと言われたら積極的に活用したい判例としてご紹介させていただきます。
名古屋大学は、地震防災研究において全国的にも有名です。減災連携研究センターが組織されており、その施設である「減災館」が一般公開されているので、建築法務部のメンバーで見学してきました。
【 ギャラリートーク 】
減災館では、教員によるギャラリートークが定期的に行われています。
まずは、災害を引き起こすと言われている活断層や雷のめぐみについて教えてもらいました。印象的だったのは、活断層の動きによって、川や谷ができるので、人々が暮らしやすくなり、活断層に沿って、集落や街ができやすいということです。もっとも、活断層があるところに人が集まりやすいゆえ、地震が発生したときには被害も起きやすいということになるということです。私たち人間は、自然の力に圧倒され、時には、被災者になりますが、自然があるからこそ、生かされ、豊かになっているということを忘れてはいけないと改めて思いました。
【 揺れの視覚化 】
その後、振動再現装置BiCURIを動かしてもらいました。この装置は、高層建物の中で巨大地震に遭遇した時の揺れを映像とともに振動台を使ってリアルに再現するもので、今回は、熊本地震のときの、被害が甚大だった益城町の揺れを再現してもらいました。ガタガタと揺れ始めた後、グラングランと長時間揺れ続けていました。これを実際に自宅で体験したら、建物の心配のみならず、命の危険を感じるのは当然だと思いました。
東南海地震で想定される地震における高層マンションでの長周期振動も再現してもらいました。揺れ方が、ゆっくりで、揺れ幅が大きいので、見ているだけでも酔って気持ち悪くなってしまいそうでした。そして、時間が経てば経つほど揺れ方が激しくなるので、屋内の物が次々と倒れていく映像が映され、とてもリアルで怖かったです。
また、施工後には確認しづらい木造建物耐震補強の実物展示や、大きい窓が設置してある場合など構造が弱いと揺れによってあっけなく潰れてしまうことがわかる木製の模型などを見ることができました。
【 名古屋の地形 】
減災館2階には、地形の高低差を見ることができるコーナーがあり、教員の方の解説を受けながら、日本の地形や活断層の位置を確認したり、現在と何十年も前との名古屋の地形を比べ、都市化されてきた様子を見ることもできました。
私たちは、事務所の位置や、それぞれの自宅の位置を見つけたりして、地震や洪水などの災害が起きたときに地形的に大丈夫かと、各自、真剣に見入っていました。
地形を検討することは、災害に遭いやすいか、地質はどうか等、建物を建てたり、購入したりする際、とても重要な考
慮要素であることが理解できました。
【 最新の免震技術 】
さらに、減災館の建物自体が最新の免震技術を施されているということでしたので、建物の地下部分を外から見て、いろいろな免震装置を見ることができました。減災館では、研究目的で、人工的に建物を揺らすこともあるそうです。
減災館の見学ツアーは、防災の重要性を実感することができるとても有意義なものでした。皆様も、ぜひ見学されてはいかがでしょうか。
名古屋大学『減災館』へのリンクはこちら↓
http://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/?page_id=22
最初に熊本地震ではどうしてあんなに建物が壊れたのか、というお話を伺いました。
1981年、建築基準法改正で「新耐震基準」が施行されましたが、新耐震基準は、震度6強程度の地震で、その建物が相当の損傷は受けるが、倒壊はしないというものです。建物の内で人が死亡しなければいいという基準ということです。
そして、大きな地震が起こるたびに法改正が行われているということです。倒壊を防ぐための壁の配置バランスや土台と柱の緊結方法は2000年に初めて基準が設けられ、この導入は阪神・淡路大震災がきっかけとなったということです。
また、最近は、2階と1階の壁がずれているという「間くずれ」の平面が目立つということでした。木造2階建ての住宅では構造計算が不要で「壁量」とバランスの基準しかないため、「間くずれ」は規制されていないそうです。これを聞いて、まだまだ耐震性に関しての法改正は万全ではないんだということが分かりました。
私が事務担当させて頂いている建築紛争の案件が、まさにこの「間くずれ」によるものでしたので、興味深くお話しを伺えました。
主に構造と基礎のついての講義をして頂きましたが、一番興味のあったお話は、「浮き基礎(コロンブス工法)」についてでした。これは建物の重さと同量の地盤(砂)を捨てて、その部分に発砲スチロールを敷き詰めるという地盤改良工法。つまり、海に浮かんでいる船と同じ感覚で建物が建っていると考える工法です。発砲スチロールに上に建物が建っている状況を考えると建物の重さで凹んでしまうのではないか、脆くすぐに崩れてしまうのではないかと考えがちですが、発砲スチロールは丈夫な素材であり、液状化にも強く、高速道路の土盛りなどの土木工事でも使用されている工法であるということを知りました。
地層について知りたい場合には、「地質調査図」を取得すれば判ることや、溶接作業は雨・風に弱いので、基本的には工場で行われること等、興味深いお話しを沢山聞けて、学ぶことが多かったです。
建築の用語は難しいため、講義中もわからないものがありましたが、片山先生のレジュメ内で写真入りで説明して頂いているものが多かったため、とても分かりやすく勉強になりました。
現場で実際に自分の目で確かめてみることが、建築の構造や基礎の勉強につながるのではないかな、とも思いました。
まずは、少しでも建築用語に慣れ、弁護士の仕事にお役に立てるようになりたいと、改めて思いました。
(執筆:建築法務部 事務局)
マイホーム(一戸建て)建築中に、建築業者が倒産してしまったらどうしますか?
マイホームの建築は、通常、一生に一度の大イベントです。大きな夢を抱いて、多額の代金を支払って(通常、多額の住宅ローン債務を背負うことになります)、マイホーム建築に取り掛かったところ、建築業者が倒産してしまった…。こんなことが現実に起きています。被害を最小限度に食い止めるために知っておくべきことをお話しします。 建築業者が倒産した場合は、破産手続きが取られるのが普通ですので、以下のお話は、破産手続きが取られることを前提にします(今回は、建築が6割進んだところで建築業者が倒産してしまったことを例に取り上げます)。
工事がストップ-まずやるべきことは?
建築工事の途上で建築業者が倒産した場合、建築業者から下請け業者や常庸者への代金や手間賃の支払いがストップしてしまうので工事はその時点で中断してしまうのが通常です。 建築工事がストップしてしまった場合、まずやるべきは、すでに出来上がった部分が傷つかないように保護すること=「養生」です。本来は、倒産業者が最低限の誠意として行うべきことですが、やることができない場合も少なくありません。養生をしておかないと被害が拡大するので、誰が養生費用を最終的に負担するのかはさておいて、とりあえず自分で負担して、やっておくべきです。
次は-出来高査定
完成を100として、工事ストップ時に、出来高は何パーセントなのかの査定を行う必要があります。これも本来倒産業者が行なうべきですが、倒産業者側と施主との間で利害対立を生むところなので、施主側でもやっておくべきです。当該工事の確認申請をなした建築士の方に頼むのが一番良いでしょうが、その人が倒産業者内部の人である場合は、利害関係のない建築士の方に頼んでください。。
工事ストップ時の支払い済み代金は?
建築工事の請負代金は、工事の進捗状況に合わせて3回か4回に分かれて、支払われることが多いだろうと思われますが、工事の進捗状況と、代金の支払額が正確に比例するものではありませんので、工事の出来高が6割の時に建築業者が倒産すれば、代金について
a.8割支払い済みになっている
というケースもあれば、
b.4割しか支払っていない
というケースもあります。
aとbとで、その後の法的な手続きは変わってきます。
a(出来高 > 既払い代金)の場合
倒産業者の破産管財人が、施主に対し、出来高と、支払い済み代金との差額を請求してきます。
施主側としては、これは支払わねばなりませんが、問題となるのは次の2点です。
① 養生費用
養生もしないで工事をストップすれば、出来上がった部分が痛むのは当然です。養生費用は、破産法第72条1項②、③の予定する「支払い不能になった後」もしくは「支払いの停止があった後に」取得した破産債権とは言えないはずです。ですから、施主側は、自分で養生費用を負担した場合、これを出来高と既払い金との差額支払い義務との相殺によって確保することができます。但し、養生費用が多額になり、施主側の支払い義務を超えてしまった場合は、破産債権として、配当をうけるしかありません。
② 残工事に要した超過費用相当額
ストップした工事について、別の業者に残工事をやってもらう場合、材料代が高騰したり、工事の中断の影響でやり直さねばならない工事が出たりして、元の契約の残金だけでは工事を完成させることができないという事態が発生することがよくあります。これは、建築業者の倒産により、施主に生じた損害であり、施主には超過費用相当額の損害賠償請求権が発生します。この損害賠償請求権について、差額支払い義務と相殺できれば、施主は損害の回復ができるのですが、東京地判・平成23年3月23日(判タ1386号372頁)は、破産法第72条1項1号を類推適用して相殺を禁じています。相殺ができなければ、超過費用相当額については、他の破産債権者と同様の比率での配当を受け得るのみとなります。
b(出来高 < 既払い代金)の場合
破産法第53条1項は、「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続き開始のときにおいて、ともにまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、または破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる」と規定しています。同条2項は、「前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約を解除するか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす」と定めています。そして、第54条は、破産管財人が解除を選択した場合、相手方は、解除に基づく損害賠償請求権は、財団に現存すれば直ちに行使でき、あるいは財団債権者として返還を受け得ると定めています。
簡単に言えば、払い過ぎでいる工事請負代金は、破産財団が形成されていれば、一般の破産債権者と異なり、配当を待つことなく、全額優先的に返還を受け得るということです。
しかし、注意しなければならないことは以下の2点です。
① 履行済みでないこと
出来高は、10割ではないのに、請負代金は全額支払い済みの場合は、保護されないということです。例えば、工事請負代金が3000万円の場合、出来高が5割1500万円相当として、2800万円支払い済みである場合は、1200万円返ってくるが、3000万円全額が支払い済みである場合は、破産債権者としての配当しか受け得ない(配当率が2%なら60万円しか戻らない。しかも、配当時期まで待たねばならない)ということです。あまりに不公平な気がしますが、法律で定まっているため、何ともなりません。やはり、請負代金は、出来高に応じて、分割払いにすべきです。
② 破産管財人からの解除を待つこと
工事がストップしてしまった場合、破産者が建築工事を再開して完成させるということはまずありえませんが、施主側が慌てて破産者との請負契約を解除してしまうと、解除に基づく存在賠償請求権は、一般の破産債権になってしまいます。解除権は破産管財人にのみあります。出来高より払いすぎている場合は、施主側は解除はしないで、破産管財人に解除を促しましょう。
保険に入っておきましょう
建築途中で、建築業者が倒産してしまった場合、以上に述べた知識を知っておくことは必要ですが、しかし、残工事に要した超過費用相当額のように、知識を持っていてもカバーしきれない損害もあります。破産財団がわずかしかない場合は、財団債権者であっても救済されません。
マイホームの建築請負契約を締結する前に、建築業者の経営状態について調べることが必要ですが、万一に備えて保険に入っておくことをお勧めします。
住宅保証機構の住宅完成保証制度というのを知っていますか。発注先が同制度の登録業者で、機構指定の工事請負契約約款に基づき工事請負契約が締結され、その後、登録業者が機構に工事完成のための保証委託契約を申請して保証書が出ていれば、 同機構によって完成が保証される制度です。これ以外にも、建築業者が倒産した場合に備えての保険商品があります。建築業者の経営状態について、少しでも不安があれば、保険に加入しましょう。
以上、概要を説明しましたが、破産手続がとられた場合の対応には専門的な法律知識が必要になりますので、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
建築トラブルが起きたとき、どのような方法で解決したらいいのでしょうか。
まずは、施工業者・販売業者と直接交渉すること
新築、リフォームなどの請負工事の場合は施工業者、新築建売、中古住宅売買などのような売買契約の場合は販売業者と直接交渉することです。
そこで話し合いがつけば、費用もかからず、短期間に解決することができます。また、解決できない場合も、相手方の言い分がわかりますので、その後の手続の準備にもなります。
住宅紛争審査会、愛知県弁護士会紛争解決センター、簡易裁判所の民事調停
これらは、いずれも、公正中立のあっせん員、調停委員(手続によって名前は違います)に仲介してもらって、話し合いによる解決を図る手続です。それぞれの特徴を説明します。
住宅紛争審査会
住宅紛争審査会に申し立てできるのは、①新築の②住宅で、③「建築性能評価書」がついているか「住宅瑕疵担保責任保険」がついている住宅です。申立費用は1万円(消費税非課税)で、その他の費用は原則としてかかりません。弁護士と建築士が審査委員として解決にあたります。比較的フットワークが軽く、争点整理の後、現地調査を早めに行っています。
(※)住宅紛争審査会
愛知県弁護士会紛争解決センター
愛知県弁護士会紛争解決センターの「あっせん・仲裁手続」は、取扱対象が限定されていません。住宅以外の建築トラブル、リフォームなども取り扱います。申立費用は1万円(消費税別途)ですが、話し合いがまとまったとき、成立手数料がかかります。金額は成立金額によって変わってきますが、300万円を支払うことになったときは、12万8000円(消費税別途)で、原則として申立人と相手方が2分の1ずつを負担する運用になっています。あっせん・仲裁人は、弁護士がつとめますが、建築トラブルでは建築士がもう1名のあっせん仲裁人として選任してもらうことができます。この手続も比較的フットワークが軽く、現地調査、事情によっては土曜日の期日実施も可能です。
(※)愛知県弁護士会紛争解決センター
簡易裁判所の民事調停
簡易裁判所の民事調停も取扱対象は限定されていません。申立費用は求める金額によって変わりますが、300万円の支払いを求めるときは印紙代として1万円(消費税非課税)で、その他の費用は原則としてかかりません。調停委員は、簡易裁判所に所属する調停委員が2名で務めます。建築士が調停委員の1名に指名されることもあります。
裁判所の手続ですので、土曜日の開催は認められていません。他の手続との比較で重要なことは、決められたこと(調停調書という書類が作られます)について、差押えなどの強制力が認められていることです。
その他
その他、愛知県建設工事紛争審査会のあっせん、調停、仲裁手続がありますが、当事務所の建築法務部では、利用実績は余りありません。
それぞれの手続は、ホームページで詳しく説明されていますので、より詳しい説明は、そちらをご覧ください。
(※)愛知県建設工事紛争審査会
訴訟手続
上記の手続は、「話し合い解決」を基本とした制度ですので、相手方が手続に応じない、協議を尽くしたが話し合いがまとまらない場合は、打ち切り(取下や終了)になってしまいます。このような場合の最終的な解決手続は、民事訴訟です。相手が不出頭でも話し合いがまとまらなくても、最終的に裁判所が判決を出してくれます。しかし、難点は時間がかかることでしょう。現在、一般の民事裁判は平均すると1年程度で終了するのが通常ですが、建築紛争の場合、平均約2年を要しているという統計があります。当事務所建築法務部が取り扱っている事案でも、それ以上の期間を要しているケースがあります。
以上、いくつかの手続をご説明いたしました。紛争は千差万別です。それぞれにふさわしい手段を考えなければなりません。どのような方法が適切かを判断するのも弁護士の役割です。迷ったら、当事務所建築法務部の弁護士にご相談ください。
2014年7月8日、欠陥住宅被害東海ネットの総会においてパネリストをされるなど建築紛争解決の場面でもご活躍中の、一級建築士の纐纈誠先生に講師をしていただき、雨漏り勉強会を開催致しました。
勉強会は、当事務所の建築法務部のメンバーの他、弁護士、事務局も多数参加して、大盛況となりました。
纐纈先生には、雨漏りの事象や原因について、纐纈先生がこれまでの調査で撮影された写真、時には図を書きながら、建築分野に詳しくない者でもわかるように教えていただきました。
そして、木造建築物、鉄筋コンクリート造り、鉄骨造でそれぞれ雨漏りが発生しやすい箇所と主な原因、漏水箇所及び原因の調査方法、補修方法等を学びました。
例えば、同じ外壁からの雨漏りでも、シーリングの施工不良、外壁のクラックが原因であるもの等、様々な要因が考えられることがわかりました。
また、話の中では、有名なハウスメーカーで建てることのメリットデメリット、リフォーム、修復すべき時期等についても教えてもらえたので、参加した事務局も、我が家について顧みるいい機会であったのではないかと思います。
建築業者はプロだからミスすることはない、と信じ込むのは危険であり、建築業者が正しい施工方法を知らずに作業しているとしか思えないような施工がされた結果、雨漏りが生じてしまった事例をたくさん紹介していただきました。
そして、雨漏りといっても、施工不良それとも劣化なのか等、専門的な判断が必要な問題であることを理解することができ、建築士の方々との連携は必要不可欠であると感じました。
今回の勉強会では、雨漏りについての理解を深めることができましたので、今後お受けするご相談等において、この勉強会で得たことをぜひ活用させていただきたいと思います。
纐纈先生、ありがとうございました。

「根太レス工法」とは? そして、その問題点
弁護士 田原裕之
最近の住宅では、「根太レス工法」が増えてきています。この問題点を考えてみましょう。
● この記事では、木造の「在来軸組工法」を念頭にしています。
● 以下は、1階の床について説明しますが、2階についても同様に考えてください。
「根太レス工法」とは?
下の「根太工法」の図をご覧下さい。 
従来は、「大引き」(「オオビキ」と読みます。90㎜から105㎜の角材を用いることが多い)を910㎜間隔に置き、その上に「根太」(「ねだ」と読みますが、「ねた」と読むこともあります。45㎜の角材を用いることが多い)を303㎜間隔に置き、その上に、「構造用合板」(厚さ12㎜のものが普通)、「床材」(厚さ12ミリメートルのものが普通)を貼ることが多かったです。 これを便宜上、「根太工法」といいましょう。 これに対して、「根太レス工法」は、下の「根太レス工法」の図をご覧下さい。 
「大引き」を置くこと「根太工法」と同じですが、「根太」を置かず(それで「根太レス」というわけです)、大引きの上に構造用合板を直接に打ち、その上に床材を貼る工法です。「直貼り工法」ともいいます。 この構造用合板は、24㎜のものを使うのが多かったです。
「根太レス工法」が増えている
最近、この「根太レス工法」が増えてきています。最近受けた何件かの相談、依頼で、「根太レス工法」の事案がありました。先日、近所の建売住宅を見学(見物?)してきましたが、そこも「根太レス工法」でした。 根太レス工法は、水平剛性を強め、水平方向の変形に強いという特性を持っています(根太工法の場合は「火打ち」を打つことで対応します)。しかし、最近の「根太レス工法」の広がりは、施工を容易にし、費用を安くすることが主な理由にであるように思います。
「根太レス工法」の問題点
私が担当した「根太レス工法」の事案では、施主の方から、「床がたわむ」「踏み心地が違う」(堅いところと柔らかいところがある)という苦情を聞きました。 どうしてそうなるのでしょうか。 根太レス工法では、大引きの間隔が910㎜で、その間は構造用合板だけで、それを受ける材がありません。そのため、大引きと大引きのまん中付近は、「たわむ」「踏み心地が柔らかい」という状態になるのです。 建築士の方に伺いましたら、「たわみ」量の計算式があるそうですので、たわみ量を計算して比較することはできますが、感覚的にいうと、303㎜間隔で根太を配置し、その間が12㎜の構造用合板であれば、大引きの間隔は910㎜と3倍なのですから、構造用合板も同じ3倍の36㎜の厚さがなければ同じになりませんね。それを24㎜の厚さの構造用合板にするわけですから、根太を置いた場合に比べて、「床がたわむ」ことになるのも自然でしょう。
「根太レス工法」は欠陥(瑕疵)か?
建築請負契約における「瑕疵」とは、「建物として通常備えているべき品質、性能を欠いている状態」をいいます。 日本人は、靴下だけ、時には裸足で床の上を歩きますから、床の状態を敏感に感じ取る生活をしています。それで、「たわみ」「踏み心地」や「床鳴り」をいう現象に敏感です。 根太レス工法を取ったことによる、「床がたわみ」「踏み心地の違い」は、「瑕疵」なのでしょうか。 木造住宅で、この点についての規制はありません。「根太レス工法」をとる場合の基準も定められていません。住宅金融支援機構の住宅工事仕様書には、「24㎜以上」という定めがあるようですが、これは「水平剛性」のための基準で、「たわみ」や「踏み心地」を考慮した基準ではありません。 多くの業者が、「大引き910㎜間隔」「24㎜構造用合板」で施工している現状で、これを「瑕疵だ」と判断することは相当困難であると思います(個人的には、「瑕疵だ」といってもいいように思いますが)。少なくとも、裁判所が「瑕疵だ」と判断することはないのではないでしょうか。 次回、これから建てる場合の注意、建ててしまった場合の対応について書きます。
「根太レス工法」で建てる場合の注意、建ててしまった場合の対策
弁護士 田原裕之
前回に続いて、「根太レス工法」についての記事です。
「根太レス工法」で建てる場合の注意
設計図を見ましょう。特に「矩計図」(「かなばかりず」と読みます。建物の断面を書いた図面で、基礎から屋根までの構造、仕様が書かれています。下の図がサンプルです。


上の図を見ると、「大引き」の上に「根太」がないことがわかります(言葉の意味は前回記事をご参照ください)。「根太レス工法」です。
これを根太工法に変えようとすると、「根太の高さ45㎜」-「構造用合板を24㎜から12㎜に薄くする差12㎜」=33㎜、床の高さが高くなります。建物全体の設計変更につながり、変更は一大作業です。工事費用も高くなってきます。特に、ハウスメーカーの場合、根太レス工法を根太工法に変えてくれといっても、なかなか認めてもらえないでしょう。
そこで、「根太レス工法」を取ることにしたとします。
対応策1
一つ目は、構造用合板の厚さを厚くすることです。24㎜を28㎜にするだけでも、違います。
根太レス工法が用いられ始めた当初、24㎜を使う例が多かったのですが、施主からのクレームが多かったためか、28㎜を採用する例が増えてきています。
前回記事で紹介しました建売住宅でも、28㎜の構造用合板が使用されていました。
この変更であれば、差し引き4㎜の増加ですから、設計変更はそれほど大きなものにはなりませんし、費用増加も少なくてすみます。
対応策2
もう一つの方法は、大引きの間に「受け材」を455㎜間隔で置くことです。
前回の感覚的計算をしますと、従来の「303ミリ間隔根太+12㎜構造用合板」よりも「455ミリ間隔大引き・受け材+24㎜構造用合板」が同等以上となりますね(正確な計算ではありません)。
「受け材」は大引きの上に配置せず同じ高さで設置しますから、床の高さは変わりません。
ある建築士の方は、「たわみなどが怖いから受け材を用いる設計をしている」と言われていました。
この場合も、費用は高くなります。「910㎜間隔大引き+24㎜構造用合板」でも構造上は問題ありません(但し、床に重い家具などを置いた場合、長期的に大丈夫なのか、という個人的疑問はあります)。構造上大丈夫なのだから、費用をかけることを回避するか、費用をかけてでも「たわみ」「踏み心地の違い」を回避するか、そこは施主の方の決断です。
「根太レス工法」で建てた場合
「根太レス工法」で建ててしまって、竣工後、床の「たわみ」「踏み心地の違い」がどうしても気になる場合。
構造用合板の厚さを厚くすることは不可能です。
これに対して、「大引きの間に455㎜間隔に受け材を設置する」ことは可能である、と建築士の方から伺いました。そして、その受け材を「床束」で支えるのです。一方、床下から作業することは実際には不可能で、床を捲らなければ工事できないという建築士の方もいました。
前回の記事の最後で触れましたが、「根太レス工法が瑕疵だ」と言えれば、その費用は施工業者、設計をした建築士に請求することができますが、「瑕疵とは言えない」ことを前提にすると、その費用は、施主が負担することにならざるを得ないでしょう。ここでも、「たわみ」「踏み心地の違い」を我慢するか、費用をかけてでも解消させるかの決断です。