深刻な紛争の解決を依頼された事例から振り返って考えると、次のようなことを注意されればトラブル発生を予防できたのに、と感じることがあります。
皆さまは、設計監理のプロです。施主は、一生の住まいを建てられますから、それだけの期待を持っています。皆さまは、持っている最高の知識を用い、最善の誠意を尽くすことが何よりの基本でしょう。
施主とのコミュニケーション不足がトラブルの原因になっていることが多くあります。
建築関係の専門用語は施主には理解できません。専門用語はできるだけ避ける、簡単な図を書いて説明するなどの工夫が必要です。
これと関係して、「これくらいのことは分かっているはず」という思い込みは危険です。建築専門家が常識と思っていても、施主には分かっていなかったり、違う意味で理解していることがあります。「基礎」と「土台」とを区別している施主はどれだけおられるでしょうか。
施主の希望をできるだけかなえてあげたいと思うのが良心的専門家でしょう。しかし、できないことはできないというのも専門家の責任。特に、「絶対大丈夫です」というような安請け合いは禁物です。後日のトラブルにつながります。
施主からの依頼によって設計監理する場合、設計監理契約書を必ず交わしましょう。
工務店経由で設計業務携わる場合も、建築確認申請に「設計者」「監理者」として記載されますと、法的立場と責任は、施主からの依頼の場合と同じです。設計したとおりの建物が建築できるように監理する責任があります。
一旦裁判になれば、名前だけの「監理者」だから、ということで責任は免れることはできません。
設計図どおりの建築がされるようしっかり監理しましょう。ときには、工務店に強い指導が必要なこともあります。
工事進行中の変更点は、図面に残し、施主の了解を得るように努めてください。
設計監理を専門家である建築士に依頼するように、トラブルの解決には、法律専門家である弁護士の助力を得ることが、建築士にとっても必要なことです。早めに相談されれば、深刻化する前によい助言ができる場合があります。
この段階に至れば、法律専門家である弁護士への依頼は不可欠になります。建築に関する基本的知識を有し、建築紛争を取り扱っている弁護士はそれほど多くありません。
名古屋第一法律事務所では、「建築法務部」を立ち上げ、弁護士、事務局員が日々研鑽を重ねています。「建築法務部」は、消費者側からの相談、依頼だけでなく、建築士の方からの相談、依頼を受け、その権利、法的利益の擁護にためにも活動しています。
この場合も、調停など、そして最終的には民事訴訟という法的手続を執らなければならなくことがあります。
まずは、弁護士に相談し、その見通し、執るべき手段などを見定めておくことをお勧めします。