住宅瑕疵担保履行保険の基礎
● 住宅瑕疵担保履行法とは
住宅を新築した(請負契約),新築の建売住宅を購入した(売買契約)後,建物に重大な瑕疵が見つかった。建築業者や販売業者に賠償請求したいと考えていたら,業者が倒産してしまった。賠償請求できなくなるの?
皆さまご存じの「耐震偽装姉歯事件」のとき,このような問題が実際に生じてしまいました。
そこで,事業者が倒産等しても,賠償を受けることができるようにしたのが「住宅瑕疵担保履行法」です。
この法律では,建築業者,販売業者に,保険に加入するか,供託するかのいずれかを義務づけています。
対象になるのは,平成21年10月1日以降に引き渡された新築住宅です(住宅ではない建物,例えば,店舗や工場は対象外です)。
大規模なハウスメーカーは,供託していることが多いですが,それ以外のほとんどの建築業者,販売業者は保険に加入しています。
自動車で言えば自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と同じような強制保険と考えればいいでしょう。
以下では,「住宅瑕疵担保履行保険」について説明します。
● 瑕疵担保履行保険について
瑕疵担保責任保険契約の特徴は,次に挙げる4点です。
第1に,建築業者(建売の場合は販売業者,以下同様)が保険料を支払いますので,注文者(建売の場合は買主,以下同様)が支払うことはありません。
第2に,補填される瑕疵の範囲ですが,「構造耐力上主要な部分」と「雨水浸入防止部分」の瑕疵(「特定住宅瑕疵」といいます)です。これは,品確法94条1項,95条1項の特定瑕疵担保責任の範囲と同じです。
第3に,原則として,建築業者が特定瑕疵担保責任を履行した際に当該業者の請求に基づき,住宅瑕疵担保責任保険法人がその履行によって生じた当該業者の負担を填補することになります(注文者からの直接請求は後述)。
第4に,保証される期間は,新築住宅の引渡し時から10年です。保険証券に保険期間が記載されています。保険証券は大変重要な書類ですから,大切に保管しておいてください。
● 注文者からの直接請求について
住宅瑕疵担保履行法は,「建築業者等が相当の期間の経過しても特定住宅瑕疵担保責任を履行しないときに,新築住宅の発注者等の請求に基づき,瑕疵によって生じた損害を補填する」と定めています。これを直接請求といいます。自動車の自賠責でも,被害者が直接請求できるようになっています(自賠責の場合は「被害者請求」といいます)が,それと似た制度です。
瑕疵担保履行保険法では,「相当の期間を経過しても・・・・・・履行しないとき」とされていますから,事業者が倒産した場合に限らず,注文者が複数回に渡って修補等を請求しても履行に応じないとき等でも直接請求は可能です。
● 何が支払われるか
保険から支払われるのは,①.補修に要する費用が中心ですが,その他に,②調査費用,③仮住宅・移転費用も対象になります。その他,保険法人によっては,求償権保全費用や争訟費用が対象になっているものもあります。填補額の限度は,2000万円です。
なお,事業者が瑕疵担保履行保険に請求するときは,損害額の80%が填補されますが,注文者からの直接請求の場合は,100%補填されます。
● 住宅紛争審査会を利用できる
保険付き住宅の場合,「公益財団法人住宅リフォーム・住宅紛争処理支援センター」が実施している「住宅専門家相談」を受けることや紛争が生じた場合には「住宅紛争審査会」を利用できます。
住宅紛争審査会の申立について,保険付き住宅であれば,対象となる紛争は上記しました「特定住宅瑕疵」に限定されません。「壁紙が切れている」「追加工事代金を請求されている」というような紛争でも申し立てできます。
一方,供託住宅は(建築性能評価を受けた住宅でなければ),住宅専門家相談,住宅紛争審査会は利用できません。
● おわりに
瑕疵担保履行法は,事業者が倒産等した場合においても注文者が少ない負担で瑕疵のついての紛争が解決できる様々な仕組みを設けています。注文者にとってとても頼れる存在です。