2014年7月
「根太レス工法」を考える-その1
「根太レス工法」とは? そして、その問題点
弁護士 田原裕之
最近の住宅では、「根太レス工法」が増えてきています。この問題点を考えてみましょう。
● この記事では、木造の「在来軸組工法」を念頭にしています。
● 以下は、1階の床について説明しますが、2階についても同様に考えてください。
「根太レス工法」とは?
下の「根太工法」の図をご覧下さい。
従来は、「大引き」(「オオビキ」と読みます。90㎜から105㎜の角材を用いることが多い)を910㎜間隔に置き、その上に「根太」(「ねだ」と読みますが、「ねた」と読むこともあります。45㎜の角材を用いることが多い)を303㎜間隔に置き、その上に、「構造用合板」(厚さ12㎜のものが普通)、「床材」(厚さ12ミリメートルのものが普通)を貼ることが多かったです。 これを便宜上、「根太工法」といいましょう。 これに対して、「根太レス工法」は、下の「根太レス工法」の図をご覧下さい。
「大引き」を置くこと「根太工法」と同じですが、「根太」を置かず(それで「根太レス」というわけです)、大引きの上に構造用合板を直接に打ち、その上に床材を貼る工法です。「直貼り工法」ともいいます。 この構造用合板は、24㎜のものを使うのが多かったです。
「根太レス工法」が増えている
最近、この「根太レス工法」が増えてきています。最近受けた何件かの相談、依頼で、「根太レス工法」の事案がありました。先日、近所の建売住宅を見学(見物?)してきましたが、そこも「根太レス工法」でした。 根太レス工法は、水平剛性を強め、水平方向の変形に強いという特性を持っています(根太工法の場合は「火打ち」を打つことで対応します)。しかし、最近の「根太レス工法」の広がりは、施工を容易にし、費用を安くすることが主な理由にであるように思います。
「根太レス工法」の問題点
私が担当した「根太レス工法」の事案では、施主の方から、「床がたわむ」「踏み心地が違う」(堅いところと柔らかいところがある)という苦情を聞きました。 どうしてそうなるのでしょうか。 根太レス工法では、大引きの間隔が910㎜で、その間は構造用合板だけで、それを受ける材がありません。そのため、大引きと大引きのまん中付近は、「たわむ」「踏み心地が柔らかい」という状態になるのです。 建築士の方に伺いましたら、「たわみ」量の計算式があるそうですので、たわみ量を計算して比較することはできますが、感覚的にいうと、303㎜間隔で根太を配置し、その間が12㎜の構造用合板であれば、大引きの間隔は910㎜と3倍なのですから、構造用合板も同じ3倍の36㎜の厚さがなければ同じになりませんね。それを24㎜の厚さの構造用合板にするわけですから、根太を置いた場合に比べて、「床がたわむ」ことになるのも自然でしょう。
「根太レス工法」は欠陥(瑕疵)か?
建築請負契約における「瑕疵」とは、「建物として通常備えているべき品質、性能を欠いている状態」をいいます。 日本人は、靴下だけ、時には裸足で床の上を歩きますから、床の状態を敏感に感じ取る生活をしています。それで、「たわみ」「踏み心地」や「床鳴り」をいう現象に敏感です。 根太レス工法を取ったことによる、「床がたわみ」「踏み心地の違い」は、「瑕疵」なのでしょうか。 木造住宅で、この点についての規制はありません。「根太レス工法」をとる場合の基準も定められていません。住宅金融支援機構の住宅工事仕様書には、「24㎜以上」という定めがあるようですが、これは「水平剛性」のための基準で、「たわみ」や「踏み心地」を考慮した基準ではありません。 多くの業者が、「大引き910㎜間隔」「24㎜構造用合板」で施工している現状で、これを「瑕疵だ」と判断することは相当困難であると思います(個人的には、「瑕疵だ」といってもいいように思いますが)。少なくとも、裁判所が「瑕疵だ」と判断することはないのではないでしょうか。 次回、これから建てる場合の注意、建ててしまった場合の対応について書きます。
「根太レス工法」を考える-その2
「根太レス工法」で建てる場合の注意、建ててしまった場合の対策
弁護士 田原裕之
前回に続いて、「根太レス工法」についての記事です。
「根太レス工法」で建てる場合の注意
設計図を見ましょう。特に「矩計図」(「かなばかりず」と読みます。建物の断面を書いた図面で、基礎から屋根までの構造、仕様が書かれています。下の図がサンプルです。
上の図を見ると、「大引き」の上に「根太」がないことがわかります(言葉の意味は前回記事をご参照ください)。「根太レス工法」です。
これを根太工法に変えようとすると、「根太の高さ45㎜」-「構造用合板を24㎜から12㎜に薄くする差12㎜」=33㎜、床の高さが高くなります。建物全体の設計変更につながり、変更は一大作業です。工事費用も高くなってきます。特に、ハウスメーカーの場合、根太レス工法を根太工法に変えてくれといっても、なかなか認めてもらえないでしょう。
そこで、「根太レス工法」を取ることにしたとします。
対応策1
一つ目は、構造用合板の厚さを厚くすることです。24㎜を28㎜にするだけでも、違います。
根太レス工法が用いられ始めた当初、24㎜を使う例が多かったのですが、施主からのクレームが多かったためか、28㎜を採用する例が増えてきています。
前回記事で紹介しました建売住宅でも、28㎜の構造用合板が使用されていました。
この変更であれば、差し引き4㎜の増加ですから、設計変更はそれほど大きなものにはなりませんし、費用増加も少なくてすみます。
対応策2
もう一つの方法は、大引きの間に「受け材」を455㎜間隔で置くことです。
前回の感覚的計算をしますと、従来の「303ミリ間隔根太+12㎜構造用合板」よりも「455ミリ間隔大引き・受け材+24㎜構造用合板」が同等以上となりますね(正確な計算ではありません)。
「受け材」は大引きの上に配置せず同じ高さで設置しますから、床の高さは変わりません。
ある建築士の方は、「たわみなどが怖いから受け材を用いる設計をしている」と言われていました。
この場合も、費用は高くなります。「910㎜間隔大引き+24㎜構造用合板」でも構造上は問題ありません(但し、床に重い家具などを置いた場合、長期的に大丈夫なのか、という個人的疑問はあります)。構造上大丈夫なのだから、費用をかけることを回避するか、費用をかけてでも「たわみ」「踏み心地の違い」を回避するか、そこは施主の方の決断です。
「根太レス工法」で建てた場合
「根太レス工法」で建ててしまって、竣工後、床の「たわみ」「踏み心地の違い」がどうしても気になる場合。
構造用合板の厚さを厚くすることは不可能です。
これに対して、「大引きの間に455㎜間隔に受け材を設置する」ことは可能である、と建築士の方から伺いました。そして、その受け材を「床束」で支えるのです。一方、床下から作業することは実際には不可能で、床を捲らなければ工事できないという建築士の方もいました。
前回の記事の最後で触れましたが、「根太レス工法が瑕疵だ」と言えれば、その費用は施工業者、設計をした建築士に請求することができますが、「瑕疵とは言えない」ことを前提にすると、その費用は、施主が負担することにならざるを得ないでしょう。ここでも、「たわみ」「踏み心地の違い」を我慢するか、費用をかけてでも解消させるかの決断です。