土地Aと土地Bが隣地同士であり、土地Bには従前から建物が建っていました。土地Aを購入した注文者は、工事業者に対して土地A上に自宅の建築を依頼しました。当該工事業者は、土地Aと土地Bとの間にブロック塀を建てるため、土地Bとの境界に近い土地Aを境界に沿って25cm程度掘り下げました。その後、土地B側に土地Aとの境界に沿って設置されていたコンクリートブロック擁壁より深い部分の地盤の土が崩れ、土地の犬走り部分にヒビ割れが生じ、同じ部分に設置されていた温水器が倒れ、当該擁壁に設置されていた温水器(屋根に設置されたソーラーパネルで集熱し、温めた湯をためて置く装置)が倒れ、当該擁壁に設置されたアルミフェンスの一部が損壊したのです。

この時、当該工事業者は、自らが加入する請負賠償責任保険で対応しようとしたところ、地盤崩落免責に該当すると保険会社からいわれ、保険金の支払いを受けることができませんでした。
地盤崩落免責とは、
① 地下工事、基礎工事または土地の掘削工事に伴い発生した土地の沈下・隆起・移動・振動もしくは土砂崩れに起因する土地の工作物・その収容物もしくは付属物・植物または土地の滅失、破損または汚損について法律上の損害賠償責 任を負担することによって被る損害
② 地下工事、基礎工事または土地の掘削工事に伴い発生した地下水の増減について法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害
について免責とするというものです。
当該工事業者は、自らが賠償責任を負うような場面で保険に加入していたにもかかわらず、思わぬところで保険金が支払われないという場面に遭遇してしまったのです。結局、全額について自身で賠償金を工面して支払わなければならず、こんなはずでは無かったのにという事態が生じてしまいました。こういったことの無いように、これを読まれている工事業者の方は、自身が請負う工事との関係で生じやすい損害がきちんと補填されるようになっているかを改めて確認をしておかれることをお勧めします。
最近の建物は気密性が高くなってきました。そのため、建物の外壁に湿気がたまると、結露の原因となったり、木材の耐久性が損なわれてしまうという問題も生じてきました。
その問題を解決するために考え出されたのが、「(外壁)通気工法」(通気「構法」と書かれることもあります)です。
どんなものかは下の図を見ていただきたいのですが、要するに、建物躯体と外壁の間に空気が通る層を作って、水蒸気を建物外に追い出してしまう工法です。

これにより、結露を防止する、躯体部材の乾燥を保ち建物耐久性を確保するという効果が得られます。
最近の建物(住宅)ではほとんど通気工法が用いられるようになりました。特に、瑕疵担保履行保険付きの住宅では、通気工法とすることが保険の条件とされています。
ここで、注意しなければならないのは次の点です。
1 胴縁
建物躯体に直接外壁材(最近では 窯業系サイディングを用いることが多いです)を貼ることはありません。「胴縁」という木材を打ってそれに外壁材を貼り付けていきます。この胴縁が「通気胴縁」になっているかです。胴縁のところで空気の流れが遮断されてはいけません。建物完成後は、外から確認することができなくなりますので、建築中に確認しておきましょう。
2 外壁の上下
折角外壁が「通気」していても、その上下が塞がっていれば、空気は通りませんね。外壁の一番下には、「水切り」という金属製の部材が入っています。そこから空気が出入りできるようになっていることを確認してください。外壁の一番上は屋根のひさしの下になりますね。この部分が塞がれていることが時々あります。ここから空気が抜けるようになっていますか?
今回は、「通気工法」について説明しました。

Q. 台風による強風で西側の家の瓦が飛ばされてきて、車に傷が付いてしまいました。
瓦の所有者に損害賠償を求めることはできるでしょうか?
A. 一部または、全部の損害賠償が認められる場合もあります。
民法717条1項は、建物などの「土地の工作物」の占有者や所有者は、その設置や保存に「瑕疵」があって他人に損害を与えた場合、その損害を賠償する義務があると定めています。建物が通常備えるべき安全性に欠けている場合には、「瑕疵」があるとされます。
過去に幾度も台風が来ているような地域においては、一般に予想される程度の強風が吹いても屋根瓦が飛散しないよう、屋根瓦を固定するなどする義務があります。
台風が来て、付近一帯の瓦は飛ばされていないのに、燐家の瓦がいくつも飛散しているような場合には、瓦の固定が不十分であったと推認され、賠償が認められる可能性は高いでしょう。
一方、予想される以上の、今までにないような強風が吹いたり、竜巻が起きたような場合、付近一帯の瓦も飛んだような場合には、「通常備えるべき安全性を欠いていた」と認められることは難しく、「不可抗力」とされる可能性が高いといえます。また、どの家の瓦により被害を受けたのか、特定することもなかなか難しいと思われます。
建築紛争事件が、裁判に持ち込まれると、瑕疵にあたるかどうかの判断と、瑕疵と認められた場合の修補費用が問題になるのが通常です。
瑕疵にあたるかどうかの判断には、建築の専門知識が不可欠です。修補費用の算定についても同様です。
しかし、裁判官は、法律の専門家であっても建築の専門知識はないため、建築関係訴訟には、イ 調停委員、ロ 専門委員 という制度が用意されています。また、必要に応じて鑑定が行われることもあります。
これらの制度が利用されるのは、通常、争点整理が終わり、瑕疵一覧表が完成した時点になります。調停委員、専門委員、鑑定人となるのは、裁判所が委嘱した一級建築士、構造設計一級建築士等です。建築士の方にもそれぞれ専門があるので、事案に応じてふさわしい人を選任しているようです。
【調停委員】
「付調停」という決定がなされ、調停委員として、参加します(民事調停法20条)。
調停というと、一般民事調停や家事調停を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、当地(名古屋)における建築関係訴訟の場合、裁判官があくまで調停の主催者で、調停委員は、建築の専門家の立場から意見をいうというのが通常です。民事訴訟手続きにおける「(現場)検証」制度は、調停委員が選任されてから、「現地調停」という形で行われます。
調停は話し合いによる解決を目指す制度であり、調停委員は、調停の最終段階で瑕疵にあたるか否か、瑕疵と認めた場合の修補費用についての意見をのべます。鑑定の場合や、私的に建築専門家の意見を聞く場合は、費用負担が問題になりますが、調停委員は、原告・被告からみると、無料で専門的意見を言ってくれるので、すごく助かる制度です。調停委員の意見は口頭の場合もありますが、書面化されている場合の方が多いと思います。調停委員の意見を踏まえて調停が成立することが少なくありません。また、調停が成立せず、尋問等に進む場合も、調停委員の意見は判決に反映されることが多いので、調停委員の意見の内容は重要です。
【専門委員】
専門的な知見に基づく説明を聴くために、専門委員を選任して、訴訟手続きに関与してもらう制度です(民事訴訟法92条の2)。調停委員は、意見をのべますが、専門委員は、意見を言うのではなく、専門的な知見に基づく説明をするにとどまります。
当地(名古屋)の裁判所では、専門委員制度はあまり利用されていませんが、他地域では調停委員ではなく専門委員が活用されているところもあるそうです。
【鑑定】
通常の建築関係訴訟は、建築士の調停委員がつくので、鑑定の必要性がないことが多いのですが、例えば壁の内側が腐朽しているか否か、どの程度の腐朽であるかなどが瑕疵の重要な内容である場合は、鑑定が必要になることがあります。鑑定人に選出されるのは、やはり一級建築士等の専門家です。鑑定の場合、鑑定費用の予納が必要です。

住宅を新築し、瑕疵担保履行保険が付けられています。住宅の基礎に重大な欠陥があるのに、工事業者が補修費用を支払ってくれません。直接保険会社に請求できないのでしょうか。
制度がかなり複雑なので、以下、その概要を説明します。
平成21年10月1日以降に新築住宅を引渡した建設業者・宅建業者(ご質問は、新築請負ですので、以下、「建設業者」として説明します)は、「保険の加入」または「保証金の供託」をすることが義務づけられました。これは、「住宅品質確保法」に基づく10年間の瑕疵担保責任を果たすために必要な資力を確保するためです。
対象となる瑕疵(欠陥)は、「構造耐力上主要な部分」「雨水の浸入を防止する部分」についての瑕疵です。
これらの瑕疵のために住宅を建築した方(施主、注文者)が損害を蒙ったときに、建設業者の補修費用などの損害賠償金を保険会社が支払ってくれるという制度です。
原則的には、建設業者が一旦、施主に補修費用などの賠償金を支払い、その後に、建設業者が保険会社から支払を受けるという順序になります。

しかし、建設業者が倒産してしまったというような場合は、建設業者からの補修費用などの賠償金の支払いは見込めません。
そこで、法律では、「建設業者が相当の期間を経過してもなお当該特定住宅建設瑕疵担保責任を履行しないとき」には、施主が直接保険会社に請求できると定めています(これを施主の「直接請求」といいます)。
どういう場合に直接請求できるかについて、国土交通省は、「建設業者が破産等により存在しなくなった場合を含め、建築業者による特定住宅建設瑕疵担保責任の履行がなされない場合」と説明しています。
ところが、保険約款や保険会社の実務では、「倒産」「所在不明」の場合に限定されるようになっています。つまり、施工業者が現在も営業している場合には、直接請求を認めない、という扱いです。
施工業者が瑕疵の存在を争って裁判が長期化している、営業はしているが補修費用などを賠償する資力がない、というような場合、「まず施工業者から支払ってもらえ、保険会社は支払わない」というのでは、瑕疵の損害から施主を守る、というこの保険の趣旨が損なわれます。

そこで、日弁連は、「事業者が倒産したとき」に限らず、「発注者等の最初の請求から1年程度が経過している場合」も法律が定める「建設業者が相当の期間を経過してもなお当該特定住宅建設瑕疵担保責任を履行しないとき」に該当するとの見解を示しています。
現在、当事務所で、この問題を真正面から取り上げて、保険会社に保険金の支払いを求める訴訟を申し立てています。
最初にも書きましたが、この制度は相当複雑です。瑕疵担保履行保険のことでお困りの方は、当事務所(建築法務部)までご相談ください。
※ 瑕疵担保履行保険の仕組みについては、「住宅瑕疵担保責任保険協会」のサイトをご参照ください。

当事務所建築法務部において4回目となる勉強会を2017年9月22日に開催しました。
今回は、NPO法人「欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会」や「住まいのホームドクター/設計者の会」の創立メンバーで、東海地方において欠陥住宅問題の先駆者である滝井幹夫一級建築士に講師をしていただきました。テーマは、「建築士の業務について」でした。
【建築士法の規制】
建築物は、美しさだけではなく、建物としての使用目的・機能が求められ、街並みを構成し、安全性すなわち関係者の生命身体及び財産に損害を与えないことが求められます。
そのため、建築物の技術的水準を確保、質の向上を図るために、一定規模・構造の建築物は建築士でなければ設計・監理ができないと定められているとのご説明がありました。
具体的には、
① 木造建物では、延べ面積100㎡を超え、あるいは、3階建て以上の建物
② 鉄筋コンクリートや鉄骨造などの建物では、延べ面積30㎡を超え、あるいは、3階建て以上の建物
の場合には建築士が設計・監理を行わなくてはならないとされ、安全性の確保が図られています。

【技術の向上と昔ながらの工夫】
設計においては、最近の法律では安全性などを重視するあまり、高気密高断熱など、人工的な環境にするように法律の制定などが進められる傾向にあるが、建築主の生活の仕方に合わせながら、建材選びを工夫するなどして、四季に応じた室内環境にしていくことが必要ではないかと言われていました。た。
【施工者と監理者の分離】
監理においては、工程における重要なポイントを深い経験値に基づいて、立ち会い・目視・計測でのチェックをしていくべきであるが、建築士と施工会社とが平等な関係といえない場合には、どこまで建築士がチェックをして、適正な監理をしていくことができるかは難しいということでした。そのため、滝井建築士が所属されている「欠陥住宅をつくらない住宅設計者の会」においては、請負業者の下請けにならないと申し合わせ、設計監理の契約は建築主と結び、設計監理と施工の分離を徹底されているそうです。
【設計監理契約締結のタイミング】
建物イメージ図や各種図面を作成し、法令チェックなどをした上で、設計監理契約をすることが多いそうですが、その直前で施主の気が変わってしまい困ることもあり、建築士としては契約のタイミングは悩ましいというお話がありました。
【さいごに】
建築紛争においては、建築士の先生方に協力していただきながら進めることが多いですが、今回は、日頃の業務の内容を伺うことができ、また疑問にもお答えいただくことができ、大変有意義な機会となりました。
● 住宅瑕疵担保履行法とは
住宅を新築した(請負契約),新築の建売住宅を購入した(売買契約)後,建物に重大な瑕疵が見つかった。建築業者や販売業者に賠償請求したいと考えていたら,業者が倒産してしまった。賠償請求できなくなるの?
皆さまご存じの「耐震偽装姉歯事件」のとき,このような問題が実際に生じてしまいました。
そこで,事業者が倒産等しても,賠償を受けることができるようにしたのが「住宅瑕疵担保履行法」です。
この法律では,建築業者,販売業者に,保険に加入するか,供託するかのいずれかを義務づけています。
対象になるのは,平成21年10月1日以降に引き渡された新築住宅です(住宅ではない建物,例えば,店舗や工場は対象外です)。
大規模なハウスメーカーは,供託していることが多いですが,それ以外のほとんどの建築業者,販売業者は保険に加入しています。
自動車で言えば自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と同じような強制保険と考えればいいでしょう。
以下では,「住宅瑕疵担保履行保険」について説明します。

● 瑕疵担保履行保険について
瑕疵担保責任保険契約の特徴は,次に挙げる4点です。
第1に,建築業者(建売の場合は販売業者,以下同様)が保険料を支払いますので,注文者(建売の場合は買主,以下同様)が支払うことはありません。
第2に,補填される瑕疵の範囲ですが,「構造耐力上主要な部分」と「雨水浸入防止部分」の瑕疵(「特定住宅瑕疵」といいます)です。これは,品確法94条1項,95条1項の特定瑕疵担保責任の範囲と同じです。
第3に,原則として,建築業者が特定瑕疵担保責任を履行した際に当該業者の請求に基づき,住宅瑕疵担保責任保険法人がその履行によって生じた当該業者の負担を填補することになります(注文者からの直接請求は後述)。
第4に,保証される期間は,新築住宅の引渡し時から10年です。保険証券に保険期間が記載されています。保険証券は大変重要な書類ですから,大切に保管しておいてください。
● 注文者からの直接請求について
住宅瑕疵担保履行法は,「建築業者等が相当の期間の経過しても特定住宅瑕疵担保責任を履行しないときに,新築住宅の発注者等の請求に基づき,瑕疵によって生じた損害を補填する」と定めています。これを直接請求といいます。自動車の自賠責でも,被害者が直接請求できるようになっています(自賠責の場合は「被害者請求」といいます)が,それと似た制度です。
瑕疵担保履行保険法では,「相当の期間を経過しても・・・・・・履行しないとき」とされていますから,事業者が倒産した場合に限らず,注文者が複数回に渡って修補等を請求しても履行に応じないとき等でも直接請求は可能です。
● 何が支払われるか
保険から支払われるのは,①.補修に要する費用が中心ですが,その他に,②調査費用,③仮住宅・移転費用も対象になります。その他,保険法人によっては,求償権保全費用や争訟費用が対象になっているものもあります。填補額の限度は,2000万円です。
なお,事業者が瑕疵担保履行保険に請求するときは,損害額の80%が填補されますが,注文者からの直接請求の場合は,100%補填されます。
● 住宅紛争審査会を利用できる
保険付き住宅の場合,「公益財団法人住宅リフォーム・住宅紛争処理支援センター」が実施している「住宅専門家相談」を受けることや紛争が生じた場合には「住宅紛争審査会」を利用できます。
住宅紛争審査会の申立について,保険付き住宅であれば,対象となる紛争は上記しました「特定住宅瑕疵」に限定されません。「壁紙が切れている」「追加工事代金を請求されている」というような紛争でも申し立てできます。
一方,供託住宅は(建築性能評価を受けた住宅でなければ),住宅専門家相談,住宅紛争審査会は利用できません。
● おわりに
瑕疵担保履行法は,事業者が倒産等した場合においても注文者が少ない負担で瑕疵のついての紛争が解決できる様々な仕組みを設けています。注文者にとってとても頼れる存在です。
家を建ててしばらく経ってから瑕疵が見つかり,建築業者に対して損害賠償を請求すると,業者側から「【その建物住んできたこと】を利益として考えて,損害賠償額から控除すべきだ」と主張されることがあります。
この【建物に住んできた】という利益を「居住利益」といいます。他人の家を借りるときには家賃が発生するように,「住む利益」を金銭的に評価したものです。
「損害額から居住利益を控除すべき」という主張の根拠としては,「賠償金が全額認められれば,施主はあらためて新築建物を取得できることになって不当だ」という考え方が背景にあるようです。
しかし,この考え方には次のような問題があるとして批判されていました。
① 倒壊等の危険にさらされながら瑕疵のある建物をやむなく使用していることを「利益」とみることはできない(危険な欠陥住宅を他人に貸して賃料収入を得ることなどできない=利益を生まない)。
② 本来であれば,完成引渡時から瑕疵のない建物を使用できたのに,長年にわたって欠陥住宅に住むことを強いられてきたのはむしろ「継続的な不利益」である。
③ 業者側が争うことで長引けば長引くほど,居住期間が増えて居住利益も膨らんでいくため,受けられるべき賠償額が減っていくことになり,手抜き工事をし,かつ交渉に不誠実な業者ほど好都合な結果を招くことになる。
このような居住利益を控除すべきかどうかという論点について,最高裁判所は,「新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物全体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるとき」には,居住利益を控除できないと判断しています(最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決)。
この判例は,新築建物の売買の事例ですが,建築工事を依頼して完成引渡を受けた新築建物が欠陥住宅であった場合にも同様にあてはまります。
この判決は,「新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合」すなわち建て替え費用相当額の損害賠償請求が認められる場合であって,なおかつ,「建物全体が社会経済的な価値を有しないと評価すべき」ときに,居住利益の控除を否定したものですので,瑕疵の程度によっては,建て替え費用相当額から居住利益の控除が認められる余地は残っています。
とはいえ,建て替え費用相当額の損害賠償請求をする場合,「構造耐力上の安全性に欠け,建物が倒壊する具体的な恐れがある」ことは多いですので,もしも業者側から居住利益分を引くと言われたら積極的に活用したい判例としてご紹介させていただきます。
名古屋大学は、地震防災研究において全国的にも有名です。減災連携研究センターが組織されており、その施設である「減災館」が一般公開されているので、建築法務部のメンバーで見学してきました。
【 ギャラリートーク 】
減災館では、教員によるギャラリートークが定期的に行われています。
まずは、災害を引き起こすと言われている活断層や雷のめぐみについて教えてもらいました。印象的だったのは、活断層の動きによって、川や谷ができるので、人々が暮らしやすくなり、活断層に沿って、集落や街ができやすいということです。もっとも、活断層があるところに人が集まりやすいゆえ、地震が発生したときには被害も起きやすいということになるということです。私たち人間は、自然の力に圧倒され、時には、被災者になりますが、自然があるからこそ、生かされ、豊かになっているということを忘れてはいけないと改めて思いました。
【 揺れの視覚化 】
その後、振動再現装置BiCURIを動かしてもらいました。この装置は、高層建物の中で巨大地震に遭遇した時の揺れを映像とともに振動台を使ってリアルに再現するもので、今回は、熊本地震のときの、被害が甚大だった益城町の揺れを再現してもらいました。ガタガタと揺れ始めた後、グラングランと長時間揺れ続けていました。これを実際に自宅で体験したら、建物の心配のみならず、命の危険を感じるのは当然だと思いました。
東南海地震で想定される地震における高層マンションでの長周期振動も再現してもらいました。揺れ方が、ゆっくりで、揺れ幅が大きいので、見ているだけでも酔って気持ち悪くなってしまいそうでした。そして、時間が経てば経つほど揺れ方が激しくなるので、屋内の物が次々と倒れていく映像が映され、とてもリアルで怖かったです。
また、施工後には確認しづらい木造建物耐震補強の実物展示や、大きい窓が設置してある場合など構造が弱いと揺れによってあっけなく潰れてしまうことがわかる木製の模型などを見ることができました。
【 名古屋の地形 】
減災館2階には、地形の高低差を見ることができるコーナーがあり、教員の方の解説を受けながら、日本の地形や活断層の位置を確認したり、現在と何十年も前との名古屋の地形を比べ、都市化されてきた様子を見ることもできました。
私たちは、事務所の位置や、それぞれの自宅の位置を見つけたりして、地震や洪水などの災害が起きたときに地形的に大丈夫かと、各自、真剣に見入っていました。
地形を検討することは、災害に遭いやすいか、地質はどうか等、建物を建てたり、購入したりする際、とても重要な考
慮要素であることが理解できました。
【 最新の免震技術 】
さらに、減災館の建物自体が最新の免震技術を施されているということでしたので、建物の地下部分を外から見て、いろいろな免震装置を見ることができました。減災館では、研究目的で、人工的に建物を揺らすこともあるそうです。
減災館の見学ツアーは、防災の重要性を実感することができるとても有意義なものでした。皆様も、ぜひ見学されてはいかがでしょうか。
名古屋大学『減災館』へのリンクはこちら↓
http://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/?page_id=22
最初に熊本地震ではどうしてあんなに建物が壊れたのか、というお話を伺いました。
1981年、建築基準法改正で「新耐震基準」が施行されましたが、新耐震基準は、震度6強程度の地震で、その建物が相当の損傷は受けるが、倒壊はしないというものです。建物の内で人が死亡しなければいいという基準ということです。
そして、大きな地震が起こるたびに法改正が行われているということです。倒壊を防ぐための壁の配置バランスや土台と柱の緊結方法は2000年に初めて基準が設けられ、この導入は阪神・淡路大震災がきっかけとなったということです。
また、最近は、2階と1階の壁がずれているという「間くずれ」の平面が目立つということでした。木造2階建ての住宅では構造計算が不要で「壁量」とバランスの基準しかないため、「間くずれ」は規制されていないそうです。これを聞いて、まだまだ耐震性に関しての法改正は万全ではないんだということが分かりました。
私が事務担当させて頂いている建築紛争の案件が、まさにこの「間くずれ」によるものでしたので、興味深くお話しを伺えました。
主に構造と基礎のついての講義をして頂きましたが、一番興味のあったお話は、「浮き基礎(コロンブス工法)」についてでした。これは建物の重さと同量の地盤(砂)を捨てて、その部分に発砲スチロールを敷き詰めるという地盤改良工法。つまり、海に浮かんでいる船と同じ感覚で建物が建っていると考える工法です。発砲スチロールに上に建物が建っている状況を考えると建物の重さで凹んでしまうのではないか、脆くすぐに崩れてしまうのではないかと考えがちですが、発砲スチロールは丈夫な素材であり、液状化にも強く、高速道路の土盛りなどの土木工事でも使用されている工法であるということを知りました。
地層について知りたい場合には、「地質調査図」を取得すれば判ることや、溶接作業は雨・風に弱いので、基本的には工場で行われること等、興味深いお話しを沢山聞けて、学ぶことが多かったです。
建築の用語は難しいため、講義中もわからないものがありましたが、片山先生のレジュメ内で写真入りで説明して頂いているものが多かったため、とても分かりやすく勉強になりました。
現場で実際に自分の目で確かめてみることが、建築の構造や基礎の勉強につながるのではないかな、とも思いました。
まずは、少しでも建築用語に慣れ、弁護士の仕事にお役に立てるようになりたいと、改めて思いました。
(執筆:建築法務部 事務局)